不愛想な鉄仮面が、ガラスの心臓を持つババアを、打ち砕く。
私は、ド田舎村出身なので、高校の時から家を出ている。
その後、下宿、寮、長屋、一軒家、アパート、
マンション、ホームステイ、シェアハウス
と今までに13回も引越をしてきた。
その中で最も辛かったのが
大学に入ってから住んだところだ。
一浪したのに八流大学しか入れなかった私は、
これ以上親の心証を悪くしたくなかったし、
負担もかけたくなかったので、
最も安い物件に飛びついた。
それは古ぼけた二軒長屋で、
前に大家さんの家があった。
田舎から出てきたばかりの私。
いろいろ不安がある中で大家さんを紹介された。
「あ、あどうも」
垢ぬけず、オドオドしている私に
大家さんはニコリもせずに
「汚さないように」
とだけ言った。本当に不愛想だった。
ニコニコ営業スマイルの不動産屋と全く対照的で、
顔の筋肉ひとつ動かさない、
その鉄仮面みたいな様子に、
震えあがってしまった。
この恐れは正しかった。
大家さんの奥さんも鉄仮面。
たまに外で会って、
「あ、あ、おはようございます」
とものすごい勇気を振り絞って、挨拶をしても
「おはよう」
と不機嫌そうに眉間にしわをよせる。
いや、挨拶くらい、
ニコリとしても罰は当たらないでしょう~
一カ月に一度、
大家さんの家に家賃を持っていかねばならなかった。
これが本当に負担だった!
いつも苦虫を潰したような顔をしていた。
そんなに不愉快なら銀行振り込みにしてくれればいいのに。
本当に一カ月に一度のこれが
苦痛で胃潰瘍になりそうだった。
お金を払っているのに、いつも不満そうで
「もっと早く持ってくるように」
とか必ず何かお小言をいうのだ。
この話には、見かけはそうだったが、
本当はいい人だった・・・
というオチはない。
保証人になってくれた叔父に
「男の出入りが激しい」
「うるさい」
とか苦情の電話を数度しやがった
・・・イヤ、なさったのだ。
ただ、サークルの先輩が送ってくれただけなのに!
さらに追い打ちをかけたのは、
隣に住むおばさんだった。
このひとは、木の実ナナにそっくりだった。
見かけもガラガラした声も。
(イヤ、木の実ナナは好きだけどね)
友達と電話をしていると
ドンドンドン!
「うるさいー!」
友達が家に来ると
ドンドンドン!
「うるさいー!」
ともかく、長屋が安普請なのだ!
相手の生活音が丸聞こえ。
もう、それこそ息を殺すように生活していた。
友達には、
「Micchieeは、恐怖の長屋に暮らしている」
「Micchieeの隣には、『怒鳴りこみおばさん』がいる」
と評判になった。
最後には、
私のガラス細工のような心はボロボロになり、
精神を病んだ。
一年契約だったため、
我慢に我慢をして一年住み、
引っ越した。
大嫌い(であろう)な私が引っ越すのだから、
ニッコリ送り出してくれればいいのに
「ちゃんと、きれいにしたか、確認させて」
と最後まで、高圧的で、私は震えあがっていた。
都会って、本当に怖いところだな~。
私はこの経験がトラウマになり、
隣の物音や自分が立てる音に、
ものすごく神経質になってしまった。
その次に引っ越した所の大家さんは、
いっつもニコニコしていて、
万年恵比寿様みたいな人だった。
そして、私の親や叔父に
「こんなに素敵なお嬢さん見たことない」
「うちにお嫁さんに来てもらいたいくらい」
とおべっかのオンパレード!
弟は
「愛想が良すぎる!絶対悪党にちがいない!」
と言っていたが、本当に良心的な人だった。
家賃も格安だったし。
この経験が元で、私は不愛想な人が怖い。
アメリカに来てから、私にとって何が快適って、
アメリカ人というのは、とても愛想がのだ。
みんな、ニコニコしている。
目があうとひとまず、ニコリ。
エレベーターでもバスでもどこでも目があうとニコリ。
本当にほっとする。
やはり笑顔は、人間関係の潤滑油、
明日へのエネルギーですね。
現在の私の感想・・・
日本人もお客様には、とても愛想がよく、丁寧。
また、他人にも親切。
私の経験が特別だったんだろうと思っている。
ただ、内々はどうなんだろう・・・
パワハラとか体育会系のノリとかあるよね。
アメリカは訴訟大国、
他人に理不尽な態度を取ったら、
すぐ訴えられるからね。
私のようなガラスの心臓は、
アメリカに住む方が合っていたのかも。